この世界での冒険

























君が生き続けるたび命は輝く


いつかきっと
君とまためぐり逢える日を
楽しみに待ち望んでいるから

 
 
 
「…」
 
 
一番高い崖の上を立つ青年。
目の前には広い海が見え潮風が吹いているのにも関わらず
青年の周りにはどれも淡い色をした花が沢山咲いていた。
緑もあって花畑のようだった。
しかし青年はとても哀しそうな瞳をしていた。
海の周りには風に乗ってキャモメといった鴎のようなポケモンたちが
海を駆けては自分たちの餌を取る。


涙が出そうなぐらいの
静かな表情をして空を見上げた。
そして誰も居ない後ろにゆっくりと顔を向ける。
誰かを捜し求めているかのように恨めしそうに誰も居ない後ろを見つめ。







その視線に堪えきれなくなって波音は目を覚まし体を半分起こす。
「夢か」と呟いて、ため息をつくかのように少し俯く。
あれは一体なんだったんだろう。あの男の人は一体誰だったんだろう。疑問は沢山ある。
だけど哀しそうだった。泣いていたような気がすると波音は
静かに胸に両手を当てて目を閉じて酷く心残りした。
しばらくしてから寝ていたベッドから下りて離れ服に着替えた。昨日はトウカシティという町にある
ポケモンセンターに泊まった。誰でも寝泊まりが自由でジョーイさんが色々と親切に教えてくれた。
他の町にもポケモンセンターはあるとのこと。


昨日この世界に着いてからもそうだが必ずどこに行っても耳にする、ポケモンってなんだろう。
この世界に来たのは初めてだからよくわからないことばかりだと思っていた。
昨日出会った蝶の生き物に狼のような生き物、ヒヨコの生き物、鯢のような生き物、大きな鋭いキバが生えた蛇の生き物など。
あれがきっとポケモンなのだろう。ルビーくんはボールのようなものから生き物たちを
出していたけど、その生き物たちを保存するための道具であると見て間違いはない。
そんなことをあれこれと推理をするかのように考えてポケモンセンターを後にするといつの間にか
トウカの森の入り口の目の前に来ていた。中に入ってみると外とは違って薄暗く、木と草むらが沢山あり
ポケモンたちがあちらこちらといる。そのまま草むらの中を歩いていく。
すると赤い毛虫のような生き物を発見した。
これもポケモンなのかなと糸も簡単に手でその生き物をヒョイと持ち上げる。生き物も嫌がる様子はなかった。

可愛いと言いつつ波音は気に入ってしまい、毛虫の生き物を抱いたまま森を出ることにした。
出る途中で緑色のスーツを着たおじさんと会った。
相手はキョロキョロとして何かを探しているようだったので駆け寄って声をかけた。
聞くとあまり大したことではなくキノココというポケモンを探していたらしい。
あのポケモンが大好きだとおじさんは笑った。




「そういえばそのケムッソはどうしたの」


モンスターボールに入れないの?とおじさんは不思議そうに首を傾げて波音に聞く。
そこでまた新たな疑問が生まれた。


「モンスターボールって」


なんですか?といつものように聞き返すとおじさんは
「えっ君知らないの」と驚かれてしまった。


 
「そうなんですか。この子ケムッソって言うんですね。
やっぱりポケモンだったようでよかったです。
さっき草むらを歩いていたら、見つけて拾って捕まえたんです」



へえそうなんだと驚きを隠せないおじさんはゆっくりと頭を縦に頷かせた。
野生のポケモンであるなら必ずといってもよいほど
襲いかかってきたりするものなのに、この少女は傷つけたりすることも
モンスターボールに入れることもしないで、しかもさっき出会ったばかりと言っている割りには
ケムッソをこれだけ手懐けている。ケムッソのほうもスリスリと波音に懐いていた。
そこへ青いバンダナをした海賊のような格好をした男が「待ちくたびれたぜ」と
やって来ると、おじさんは「ひいぃ」という声を荒げて何故か波音の後ろに隠れてしまった。
そんなおじさんに波音はバンダナを付けた男のほうをじっと見た。


「なんだ。やろうってのか」

 
モンスターボールを投げてポケモンをいきなり出してくる。
ルビーが持っていた柴犬のようなポケモンだったことを思い出す。
男は名前をポチエナと言っていたから間違いはないだろう。
腕に抱えたケムッソがやる気満々で彼女の腕の中から飛び出した。
男の命令でポチエナは体当たりをしてくるとケムッソに命中しようとする。

「避けて」
 
なんとかそう命令をしケムッソは避ける。
しかし相手のポチエナはそれをなかなか逃がそうとはしてくれない。
どうしたらいいものかと彼女は悩んだ。そう悩んでいるうちに後ろから追い込まれ体当たりをされ、
軽くぶっ飛んでいるケムッソの姿が目に浮かぶ。
「かみつく」とポチエナに命令をしケムッソが丸飲みされるかのようなイメージをとらえた。
声より、足が真っ先に動き走る。おじさんに「危ない」と言われても
走る足を止めず、噛みつかれる前にケムッソの元へとやってきてケムッソを手でヒョイと拾って
持ちその場を逃れる。「なにい!?」と男に驚かれる。
ポチエナは噛みつこうとしたケムッソが波音によって助けられたことにより誤って前に
あった木にいきよいよく、歯が刺さってしまい痛い目に合っていた。
 

「くそ!覚えてやがれ」


男はポチエナをモンスターボールに戻し、そのまま逃げていった。
ケムッソ大丈夫?とケムッソの頭を撫でながら問いかける。
大丈夫だよという表情をしているケムッソに怪我という怪我は見られなかった。
波音は安心をした。それはおじさんもおんなじであった。
おじさんは彼女に歩み寄ると
「助けてくれてありがとう。おかげでデボンの書類も盗まれずにすんだよ」と言った。



「いえそんな自分は大したことなんて」

 
「あっこうしちゃいられない。早く届けなきゃ」


 
おじさんはあっとした顔をすると波音に「じゃあね」と言ってその場を走って立ち去ってしまった。
波音はケムッソをふたたび抱えて歩きトウカの森を後にした。
カナズミシティに到着をすると今までにない大きくて広い街の中を歩く。
途中でポケモンセンターを見つけたのでジョーイさんに頼んでポケモンを回復してもらった。

回復が終わってケムッソと一緒に街の中を探索する。
大きな家やビルやマンションにショップ。コンテスト会場にジムなど沢山の建物がある。
特にそのなかで大きかったのは


「デボンコーポレーション。人々のために役立つものをおつくりしています」



一番大きな建物の門の目の前にやってくると横のほうにあった看板に歩み寄り書かれている文字を読む。
へえなるほどとうんうんと頭を頷かせる。
そうしていると門が開いて、中から白衣をきた研究員たちが社長らしき者と一緒にやって来る。
ベンツの車が目の前に来て、社長らしき者はベンツの中に入る。
その後研究員たちが壁となって見えなかった、スーツを着た貴公子のような男の人が姿を現し
ベンツに乗ろうとする。波音はなんとなくその貴公子のほうを無意識に視線を落とすが
相手は全く気づかないままベンツに乗り走って行ってしまった。
残った研究員たちは手を振って見送った。親子だったのかもしれない。
きっと大事なことがあってのことだろう。例えばお見合いとか会社に関係することとか。