愉快な人





















止まない雨…何処かで誰かが泣いているのかもしれない。


  
真っ直ぐな一つの小さな太陽が雨と雲を遮り危機に直面している親子を照らし晒す。
ケッキングが屋上の階段に乗っているルビーを階段事、強引に引っこ抜き、突然の地震の揺れによって
引っこ抜いた階段の先に居たルビーが落ちてしまいそうだった所を父が手を伸ばした。
手を取ったものは良いものの、結局それと同じハメになってしまった。
ポワルンの日本晴れの効果によりその縦の一線には雨が降ることはなく
早くも乾いてくる階段の手すり棒に掴まってる片手に力を入れ、何とか下には落ちないようにと
維持し続けるが限界はある。流石のポワルンでも此ればかりはどうにもならない。

 
「何か方法が」



“ピンチの時こそ力は思う存分に発揮されるんだ。
スタートがあるならゴールも必ずある。始めたものは終わらせなきゃ”

 
だから諦めちゃ駄目なんだ
 
 
一部が崩れ落ちる。ヒュンと二つの体が力なく寂れた串刺しの地へ…まるでエレベーターの急降下のようだ。
「もう駄目だ」と叫ぶルビーに 




「ルビーくん!!!女の子に…好きだったあの子に…今も生きている
“サファイア”さんに変わった自分を見てもらいたいんでしょ!?
諦めたら二度と会えなくなっちゃうです!生きなきゃ、手立てはあるから」
 


此処から先は言えない。だけどきっと気づいてくれる。この親子なら。





そうだ
 
 
僕は彼女に。
でも彼女は気づいているだろうか、やんちゃでバトル好きなあの頃の僕を....
あれはルビーつまり僕なんだと。そんな自分から変わった今これは逃避だろうか。
 
 
僕の手を繋いで道連れに
落ちる父さんと僕。
 

僕達の死に間際に聞こえる波音の声。
 

雨となって血と化す響き。
しかし広がることはなかった。


 
「ルビー!足だ」


 
ランニングシューズの機能(裏側の踵に付いているプロペラのようなものが中に固定されていて
足の指先部分にあるスイッチを押すと誰でも早く走ることが可能)によって鋭く光った棘の大群から
奇跡的無事に脱出する。
 

父さんからこないだ貰った誕生日のプレゼント。塵箱にポイ捨てした物・・・
結局家出をする際に履いて行った。家族に殆ど居たことがなかった
僕と母さんを置いてきぼりにしていつも独りで何処かに行ってしまう。
だけど僕と父さんの命を救ってくれた。近くの草むらで僕達はハアハアと息を荒らしていた。
僕はそのまま意識を失ってしまった。



「無事みたいね」


 
親子をそっと草影から覗く。ルビーの父は立ち上がってボールを片手に持ち眠る彼を捉えてスイッチを押そうとする。
マリ達が“見てられない”まだやるのかと衝撃に口を揃えた。
そう思った時父のポケットの中から電話の音が鳴り出した。

 
「またあんたか」





「またとはなんだ。貴方が無断でジムを空けてばかりのせいで
協会から貴方を連れ戻しに来るようにって連絡が来たんだよ」

 
ジム戦を待ち構えているトレーナーが多数いるのに。空からチリタリスに乗った紫色の長髪をした男口調をした女に
赤い長髪だが髪を結んでポニーテールを中から外へ押し広げた女の人。
「私も無断でジムを空けてたから」仕方なさそうにして苦笑いを浮かべる。急かされて父はルビーの方向を向く。
「この馬鹿息子。もういい勝手にしろ。その代わり一度言ったことは必ずやり遂げろ。
やり遂げるまで家には絶対帰ってくるな」彼の手のひらを広げポロックケースを握らせる。
作った物はきちんと管理しろと。「それから母さんにも時々連絡を入れること」心配なのか
チリタリスに乗って飛んでいく最中も少し後ろを振り向いた。
 


ありがとう父さん
 
 
彼の唇が薄く笑う。
 
 
‘どんな笑顔で包んであげたら
君の悲しみ癒せるだろう’


マリ達がルビーを車の中に運んだ。一人居ないことに気づかないままシダケタウンのほうへ向かって行った。
 

「また会える日まで」
 



‘雲の隙間から見える太陽
照らし始めるよ
真っ直ぐなその瞳’
 

 

此処からは一人でやらなければならない。
彼と彼女のことを心から祈ってる。気まぐれな風が向かった先へ



 
‘見つめてごらん
向かい風の向こうに
描(えが)き続けてる未来が待っている’