ヒマワキシティに到着したのは夜の話しだった。夕陽は沈んで暗闇だけが現れる。
ジョーイさんにポケモンを回復してもらうために預け、借りた部屋で自分のパソコンをネットに繋げて
テキパキ打っていてく。コンテスト会場は此処(ヒマワキ)にはないかと小さな息を吐く。
現在リボンはたったの二つ、そろそろもう三つか四つ目を習得したい。いやしなければならない。
だけどルビーのようにコンテスト制覇が目的じゃないしあくまでも“記憶を取り戻すため”
といってこの世界を旅して来たけれど、思い出すことはない。
「嗚呼、記憶の欠片よ一体何処に行ってしまったのか」増えていくのは想い出ばかりの毎日。
同時に悩みの種も増えていく。人生楽しいことばかりが良いといっても
それは苦しみの前兆を起こす引き金にもなりかねない。そろそろ回復が完了したポケモン達のボールを取りに行く。
変わらない毎日に絶やすことがない笑顔、暖かいアットホーム、過ごしている時間に思いが集まった空間
これは素敵なことだと思う。四つのボールを両腕で抱えて部屋に戻ろうとする。
余所見をしていたからだろうか、前に人が居たことに気づかず足を進めて

 
「わっ」
 

「っ大丈夫?」
 

 
尻餅を着くことはなくボールもギリギリの所で落とさずにいられた。
 


「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたもので」
 

今までどの世界に行っても見たことのない綺麗で格好良い女性。
長い金髪に白い肌、着ている黒い服との絶妙なコンビネーションまさに美人薄命。目に焼きついた。



「うふふ気にしないで。私はシロナ。物好きなポケモントレーナーよ。
色々な歴史の神話を調べているの」















「そう‥波音ね。覚えておくわ」


「シロナさーん。大部屋で皆とお茶でも・・・あれシロナさんその子は」

 
シロナの後ろから緑色の髪をした男性がやって来る。彼女に紹介されてリョウという名らしい。
シンオウ地方の四天王、の一人だとのこと。他にも同じ仲間が大部屋に居るから“よかったら一緒に行きましょ”
誘われる。断る余裕もなくシロナに押され仕方なく従った。途中で話したことも全て強制だった。
大部屋へ着くまでの道のりが何故か長い(ような感じがした)。もうすぐの所で“酷く目眩”がする。
前に穴がポツリポツリ染み出て空間に浮かぶ。幻覚かと思いきや現実で、やがては一つの黒い穴となって
地がないかあるかの分からない場所へ落ちていった。ボヨ〜ンと音が響き体が宙に浮かんでは下に弾いては
また浮き上がり暫く続いた。ディズニーランドでいうスプラッシュマウンテンで起こるフィニッシュが襲う。
水のない水飛沫よりもハードなもの。遠くに魔物がいる。飲み込んだ感覚が襲い震えた体が止まらず
夜の誰も居ない屋敷の光景が想像つく。月明かりに照らされることがない光りのない闇を迎えて浸る。
闇のカオスソルジャーと光のカオスソルジャー
どちらも初めは混沌のうねりから生まれた紛いもないもの。(混沌の君臨者)
時空を司る二匹、生と死も司り、それらは流星のように全世界を共通して生命に影響を与えた。
星の力と呼んでいる。時間は流れ空間は広がる。与えたものはそれだけではない。
星は明るいだからこそもうひとつ与えられるものがあるのではないか。
夢だ。あれだけキラキラ輝いて美しいものはない。夢の守護神…その者は
 


「んん…ん」
 


目が覚めた。柔らかいソファに毛布がかけられていて、あれ?と起き上がり周りを不思議そうにして
キョロキョロ見た。「シロナさんとリョウさんは」いつから眠りに就いて夢を見ていたのだろう。



「お目覚めになりましたか」





肩ぐらいまであるボリュームを持った紫色の髪で眼鏡をかけた理知的で物静かな青年。
後ろから見れば女性と見間違えるぐらいの容姿。
シロナからの話しによると広場(ポケモンセンター)で話しをしていたらいきなり倒れてしまったものだから驚き
ジョーイさんに部屋の場所を聞こうとしたがポケモンの緊急手術(オペ)が入ってしまい聞くに聞けなかったため
大部屋に連れて行ったという。シロナは今他の四天王と一緒に外へ出掛けており
現在はこの大部屋に居るゴヨウが入れ替わりとしての役目を果たしている。


 
「ゴヨウさんも四天王なんですか?」
 

「ええそうです。どうぞ」


 

誇らしい笑みをして手渡す紅茶の中に、ラズベリージャムが入ったロシアンティーは香りが高い。
しかし一般的にはされておらず、昔は角砂糖を口に含ませながら飲んだり蜂蜜を入れたりして飲む。
初めて体験する味と香りだった。“美味しい”一言で味わう嬉しさにゴヨウは「それは良かった」
と向かい合いのソファに座る。テーブルの上に置かれている自分のボールを持って全員を確認すると
ポケモン達が飛び出してきた。心配していたようだ。
 
その時ちょうどシロナ達が帰って来て「あっ目が覚めたみたいね」
良かった心配してたのと笑みを浮かべゴヨウと同じことを言われた。

 
《ハオン、ボクタチオナカスイタ》

 

ああそうかご飯まだだったもんね。食堂に行こう、そうしようとしたが入口の扉が開いて
メイドさんみたいな人達が食事をズカズカ大部屋に運んで来た。全てお洒落なケーキスタンドの中に入っていた。


“美味しそう”全員(波音とそのポケモン達)は思った。目を奪われ、表なら涎(よだれ)がダラダラ出ている頃だった。
その様子に気付いたシロナはクスクス笑って「一緒に食べましょ」彼女をソファに座らせ
自分も隣に座った。またその隣をお婆さん(四天王の一人であるキクノ)が座る。
テーブルの間を前にリョウ、ゴヨウ、オーバー(赤いアフロヘアーで白く化粧をすれば
マクドナルドのドナルドにそっくり)をした男達が向かい側に座り、夕食を食べ始める。
瓶の中に詰まった蜂蜜の蓋を開けようとするがなかなか開けることが出来ずにいるとオーバーに
「貸してみな」と瓶を取られた。瓶は簡単に開いたが蜜の匂いに誘われ波音のアゲハントが飛びつき
長いストローのようなもので瓶に詰まった蜜に突き刺す。
 


「アゲハント!行儀が悪いよ。すいませんこの子が…うわ!」



叱られたアゲハントはびっくりしていきよい良く、波音の顔面に突撃してきた。
そのためソファから外れ横にひっくり返って頭を打ってしまった。
両手で打った頭を押さえながらシクシク泣いている。それに対してお構い無く、奴は頭の上に乗っかってくる。
 

「もうどうして乗るのかな」
 

呆れ果てたようにして溜め息を吐く。シロナさんとキクノさんに「仲が良いのね」って言われるし
リョウさんからは「君なら虫使いになれるよ」(別になりたくない)、
ゴヨウさんとオーバーさんは笑ってるし、なんだか恥ずかしい。


「最初に捕まえたポケモンですか?」
 

「はい」
 

「初めてポケモンを手にしたときの気持って今でも覚えてるんだよな」
 

初めてのポケモン。初めてのポケモン…か、確かに捕まえたのはアゲハント(ケムッソ)が初めてだけれど。

 
「昔は旅して、強くなることで頭がいっぱいだったし」




フィーレ...貴方もポケモンなの?初めて手にしたポケモンが貴方なら、今は違うよね。もっと違えたよね。
思い詰めた顔色が人際目立つ不安という仮定を残して。本当の自分は此処に居て此処には居ない。
居場所は本来何処にもないものなのよ。魂を置いていき脱け殻だけが偽り続け
異世界を回るに回って逃げるに逃げた。でも魂を置いて逃げてしまった。
少ない“希望”の欠片を放ち魂は眠りに就いたまま、脱け殻といっても肉体などはない。
どちらも同じ希望の塊、魂があるかないかだけの違い。
 

「どうしたの?波音暗い顔をして」


 
現実に引き戻された。「なんでもないです」ただ一人大部屋を後にした。
 





「あら何か落として行ったわね」



一枚の写真、長い金髪にウェーブのかかった少女と茶毛をした兎のような動物が映っていた。
「これって、」言葉が続かなかった。瞼に少し皺が出来、複雑そうにして写真を眺める。
気になっていたリョウ達も手にしてそれを眺めた。



  

「ただいまです」
 
誰も居ない(ポケモン達も何処に行ったのか)明かりの付いた空間にポツリ。
「シロナさん達が居ない」
出掛けてしまったのだろうか。そう思わせた時突然横から“ベチャ”としたものが頬に大きく貼り付いた。

























続く