思い出はいつの日も雨























オカリナを吹き始めて約三時間後、雲に覆われていた夜空が徐々に変化をもたらし、星達が姿を現したのだ。
彗星も後に姿を現して夜空に大きな流星形を描き美しい尾を引く。その時だった。
繭が輝き出し宙に浮かび上がる。神秘的で初めての光景にポケモン達も全員驚いていた。
水飴色を伸ばし、糸状にほどかれていき流れ星が正体を現す。
重力の反発により下へゆっくりと目を瞑った状態で落ちてきた。
眠りは浅くなっているものの波音は包み込むようにしてジラーチを両手で受け取る。
ようやく眠りから覚め目を開くジラーチ、テレパシーが脳の中に響く。
 


《ン?・・・・》
 


笑みが溢れる波音にジラーチは此方を振り向いて《ダアレ?》と首を斜めに動かす。
 


「今晩和。初めましてジラーチ。自分は波音、神風波音。ハオンって言うんです」
 


《ハオン?》
 


まるで幼い少年のようだった。手から離れて浮かび上がり波音を見た。
“ハオン”名前を何度も呟く。《ハオン、ボクトオナジナカマ》同じ力を感じる。
わーいと小さな体で波音の首を抱きしめる。わかるの?自分の口に片手を当てて驚き、苦笑いを浮かべた。
無邪気に飛んで駆け回るジラーチ。
いつの間にかポケモン達と輪に溶け込んで駆けっこをしていた。
新しい仲間が増えたことに喜んでいるのだろう。
クルクル回って来ては遊び、転ばせては彼女に追いかけられる。







次の日、朝日は昇り旅の続きが始まろうとする。ヒマワキシティまでもう少し、
の筈が突然大雨がザーッと降ってきたではないか。一瞬にして髪と服がびっしょりになり
「さっきまで晴れてたのに」極端だ。急いで雨宿り出来る場所を探し、見つけたのが“お天気研究所”
と書かれた研究所の前にある看板。中は誰も居ない?電気が付かず明かりのない一階のフロア
更衣室らしき個室に入りずぶ濡れ化した服を脱ぎ、桂も取って替えを着た。バサっと長いものが重なる。
誰も居ないことを確認し元の髪の毛を久しぶりに櫛でとかしていく。
すると上から何か物音がすることに気づいた。ビクリと体を飛び上がらせ、恐る恐る新しい桂を装着した。
階段を登って行きバンと壁に叩きつけられたような音が耳に届く。屋上に辿り着き
そこは先ほどと同じ雨が続いていた。その前に傘を差してカバーする。

目の前には


 
「ルビーくん!」



 
頬には幾つか殴られた痕、ボロボロ(穴が空くまでではないが)に濡れた服、傘を捨てて彼の意識を確かめる。
せっかく着替えた服と桂がまた雨に打たれるのも構わず同時に離れた場所から睨んだ一つの影を感じる。
ルビーは無事だった。意識もあり彼は「父さん」と呟いて睨んだ影を前に立ち上がり、雷が鳴った。
ヤルキモノ(白くて名前はそのままナマケモノがやる気になった姿)を繰り出して来る。
ケッキング(ヤルキモノが進化した姿。ゴリラにも似ている)も繰り出し、二匹一緒の切り裂くが命中しようと
彼女も波乱に巻き込まれる。ルビーは危険に曝される波音の腰に片手を回し両方の足膝の裏に
もう片手を回すとお姫様抱っこをして避けた。彼は「あっ…なんで僕は」何かを振り払うようにして横を向く。
波音を抱えたまま後ろから追っ手がやって来る。
ヌマクロー(ミズゴロウが進化した姿)が泥をかけて目に命中させる。
前が見えず一時的に混乱しその間に行方を眩ませた。


人気のない部屋の何処か。中も外も暗闇に包まれた雨が滝のように地面を打っては泣いてる。
彼の表情が険しく堅かった。闇の中で二つの影のうち一つが地面へ下ろされペタリと座っている。
彼の様子を伺った。


 
「助けてくれてどうもありがとうございました。あのさっきお父さんって、ルビーくんの」
 



「そうだよ僕の父さんさ。別名“強さを追い求める男”僕を連れ戻しに来たんだ」




即答するかのように波音の話しが終える前に口ずさむ。両手で握り拳をつくる。

 
「僕の目標はコンテストを全制覇すること…父さんはそれに反対してる。
コンテストなんかよりバトルのほうに磨きをかけろって…!」


 
ワナワナ歯を噛み締め握っていた拳をギュッと握り潰す。
父と言った姿が重なる。波音はただ黙々彼の話しに耳を貸すことしか出来なかった。
彼は過去を語った。




【あれは僕が六歳の頃ジョウト(近畿)地方に住んで居たとき。
今よりもう少し若かった父さん(ジムリーダーに就任したばかり)に母さん、父さんの親友である
博士(オダマキ)、名前の知らない女の子。ある日名前の知らない女の子と大きな研究所の近くで遊んでいた時の事】


一匹の巨大なドラゴンポケモンが大きな草の雲から現れた。
 


「ボーマンダ!?」


 
“ひぃ”悲鳴をあげる恐ろしさ、女の子がドラゴンに喰われる瞬間をルビーは片手で掴んだ。
ポチエナ(NANA)、エネコ(COCO)、ラルトス(RURU)を繰り出し相手を散々に叩きのめす。
ボーマンダは苦しんで抵抗をする前に我を忘れかけていた。“女の子を守ろなければ”
というルビーの意志はすっかりと違うものに染まってしまった。
右の額(頭)に大きく鋭い先がザクッと皮膚の上を走った。傷が出来た所を右手で押さえ
「ボーマンダをやっつけるんだ!!」COCOの捨て身タックルがボーマンダの急所を突く。
多数の怪我を負いながらボーマンダはドタドタ歩いて逃げて行った。


「勝ったよ。もう大丈夫!ボーマンダはもう追い払ったから」



出来た傷の痕から血が流れ出しているのにも関わらずルビーはいつもの姿に戻っていて手を差し伸ばす。
しかし彼女は怯えた。いや怯えていた。目に沢山の涙を含ませ「怖いよォ」と言って
泣き出してしまいそれ以後何も言うことが出来なかった。おしとやかで綺麗好きで可愛い彼女




【僕は純粋な彼女の心を汚してしまった。ボーマンダよりも僕の戦う姿に恐怖していた】




夢中で過ごした夢のような時間がポケモンバトルのせいで一人になってしまった。だから“決めた”ことがある。




此れからは強さよりも美しさを追い求めよう、自分の戦う姿はもう二度と人前にさらすまい!!





「そう誓ったんだ。僕の心にね」



「…」



 
雨が鳴き続ける。



「だけど今は」

 
鳴き続ける雨に向かい
「僕がやらなければならないことが直面してる時なんだ」今こそ現実と向かい会うとき
「父さんに挑まなきゃ」戦うんだ!外の景色に合わせて父の居る上を飛び出す。


 
「謝罪をするぐらいなら態度で示せってやつかな」




顎に手を添えて考え込むように吐く波音。彼の過去は名の知らない女の子を脅威に陥らせるほどの凄いものだった。
聞いているだけで心に焼きつく。傷つけることもそうだが、誰もが同じことをやってはいけない。
けれど人間というのは殆どが同じ日々、生活、歴史を繰り返しているものだから
決まったことでしか動かないのが事実。それを当たり前の事と思い何度も繰り返す。
人間はどうしても常識な方向を選択しようとするものだからいつまで経っても逆の方向性を突き抜けられない。
それらを覆したものが個性(人と別の行動を取るなど)と呼ぶべきものなら
今の生きているこの繰り返しの時間は何て呼ぶべきだろうか。
殆どは個性を覆い隠す仮面を付けた人間達…ルビー(サファイアは逆)もそのうちの一人に当てはまる。
彼等は変わってる、他の人間とは違う気がする。だが個性あるのかは分からない。




《ハオン、ケツマツミタイ?》



 
ボールの中から出てきた何気ない表情をするジラーチ。

 

「うん。確かめたいこともあるし」


 上の屋上にルビーが戦ってる。捨てた傘を拾って手にし雨が降る外に出て屋上まで足を動かす。
階段がないためかこれ以上進むことが出来なかった。
そこにマリとダイ、お兄さん(海水浴の格好をしているゴーグルを付けた、コードネーム=海パン野郎)が
様子の見えない屋上を見て、特にマリは「やめさせなくちゃ」
何とかしなければ…簡単であるがあの二人が親子だということは知っている。
それに対してダイと海パンは“見過ごしておけばいいじゃないか”俺達に関係はないだろうと。



 
「あの二人はホウエンに訪れる巨大な悪を撃つために必要な大切な人類でもあるのよ!ねえポワルン御願い」


 
雫の形をしたポワルンは雨の影響で姿を変えていた。両手で揺さぶられ困った顔つきをする。
近くにルビーのヌマクローが長くて屋上に続いている細いパイプ菅を利用し彼の元まで
マッドショット(泥の塊)を送って武器として撃っているらしい。どういう戦いになっているのだろう。
どんな状況だとしても静かに見守っていたい。やめさせる・やめさせない…
どっちの選択も取らないこの選択にある先の未来は






『大丈夫。だって貴方のお父さんは…』




最大のマッドショットが父に放たれる




















続く