「名前もおんなじだ」

 
「…」

 

首を横に振り風の刄が二人に襲いかかる。中で薔薇が散る。
引き裂かれた二人、暗い表情と目をして彼女はダイゴから避けた位置にいる。
ダイゴは頬に一筋の傷を負って彼女の紛いのない背中を見た。
「違います。自分は貴方が昔出逢った女の子ではありません」人違いでは?と後ろを振り向かなかった。
“早く見つかると良いですね”救いはその言葉だけだった。ジラーチの繭を撫でて
 


「この子は責任を持って育てます。にしてもダイゴさん、貴方にも願いはあるのでしょう。
躊躇していますか?戸惑ってはいけませんよ」
 


ダイゴは酷く外方を向いた。横目で相手を見ることもしないまま時は勝手に流れた。
決心がつかない?この僕が何てことを言うんだ。ただ託してみたいだけだと思っていたのに
知っているのかわかるのか?今度は逆を突かれる。絶望の眼を感じるのは気のせいではない。
彼女は何も知らない。僕は……どちらでもない。迷いがあるからではなく恐れているんだ。
彼女のうわべとは違う何かを。触れれば見つけられるかもしれない。しかし接触はしてはいけない。
彼女の心を汚してしまうような、そんな気がしたから。



人形同然となって動かない波音は暫くして横を振り向いた。
願いと夢、けれどこれは願いである。ルビーとサファイアとしたあの八十日の約束。
彼らに語らなかった夢は、願いで未来を目標にするものではない。自分は彼らとは違う。
夢は本来、花の蕾という鎖に縛られ叶うまで解き放つことはない。開花しなければ永遠に花びらは閉じたまま。
願いも同じ、叶えることには変わらない力を持つ。夢は未来(さき)に願いは現在(いま)のことを指すとすれば
約束は先だから“未来”と確定されるのは間違いないだろう。
叶えたいもの、未来に現在に叶うかもわからないものを夢、願いと呼べない。
どちらも常に必ず自分の前にある。手に届く距離も同じで先に叶うもの、後か先かわからないけど叶うもの
運命の謎はいつも巡り逢う瞬間に解けるものだ。原因も定まらないし曖昧で、目にも見えなくて
ある意味煩わしい。何事に対しても生きていれば運は付き纏うのは当たり前。
此処の世界に来たのも何か意味があってのこと。これも運命なのだと。
そして滝の下の向こうにいる(横を向いていたら気づいた)赤い所属を見かけたのも偶然ではなく必然。
眼鏡をかけた探検の格好をしている男と何かを話す。


宇宙からやって来たグラン・メテオ(隕石の名)、不都合な状況だったのだろうか
後ろ以外行く道がなく男はそれを抱え、赤い所属の男に背を向けて走り出す。
赤い所属の男は目付きを鋭く吊り上げ、顰めっ面な顔で自分の傍に二匹いるポケモン(マグマッグ)に
男を追い詰めるよう襲わせる。マグマのような体をしている二匹のぶつかっていく痕の地面は
溶け焼けてこびりついていた。相手がポケモンなら攻撃されて深い火傷を負ったとしても
治りも傷跡も無くなるのは早いが、これが人間なら容易ではない。
ポッチャマを出して男を捕まえようとするマグマッグ達に泡(バブル)光線を浴びさせ遠ざける。
赤い所属の男は顔を歪ませポッチャマと男の前に立つ波音を見た。“何者だ”
瞳を弄らせマグマッグが襲いかかる。水の波動を使い輪のように吐く攻撃は混乱状態に陥らせる。
それを先ほどと変わらない場所からダイゴは戦いに手を出さず波音の腕前を黙々と見ていた。
こないだ生まれたばかりのポケモンをもうあれだけ使いこなすとは。驚いたのはそこだけじゃない。
彼女自身が明らかにポケモンに馴れているということ。こないだシンオウ地方のほうに足を踏み入れ
珍しい石を探しに行ったとき、普通のポッチャマというのはプライドが高く
人から食べ物を貰ったりするのは嫌い。
のはずが彼女が持っているポッチャマは誰もが見て覆されるほど性格が至って変わってる。


親が既に亡くなってしまっているからわからないが、多分プライドは高かったのだろう。
子は親の背中を見て育つとよく言われる。しかし肝心の親は居ない。
親は、生まれて初めて最初に出逢った波音だけだと認識している。馴れていけば馴れていくほど
産みの親のことを忘れてしまうのではないのだろうか。育ての親に対する絆が強くなってしまうから。
他のポケモンもそれはきっと同じだ。
マグマッグ二匹が宙から下へと叩きつけられる瞬間は一種の宇宙空間を演出するものだった。
 

「ヒューやるな」


赤い所属の男はニヤリと笑うと叩きつけられた一匹のマグマッグの体が広がって溶け出し
片方は熱を放出し大きな蝋燭の火のようにゆらゆらと影が重なり、幻影を映しだす。瞳の色が変わる。
つられて彼女は大事なものを取り残し幻影に取り込まれる。燃え広がる炎の中をさ迷い
いつ完全に燃焼されてもおかしくはなかった。汗なくただひたすら歩いている先に未来はない。
これはやばいとダイゴは走って来て幻影に捕らわれてる波音に手を伸ばした。
一瞬脳波に昔のことが過る。似たようなことがあった。波音の手を取り
彼女は脳波に描かれた別なことを見て気を失う。足に力が抜け力のない体は地面に付着しそうになり
彼の腕の中に収まる。




メタングを出し幻影を破りサイコキネシスでマグマッグ二匹を倒す。
男は舌打ちをして、諦めたのだろうかその場を後にした。無事であった波音の頬を撫でて抱きしめ
目を瞑って手と腕と肩を触る。暫くして触った手を離し目を開ける。
顎に手の指先を当てて考える。ルビーのときも同じだったと呟き、波音を見る。
表情はいつもと変わらず少し悩んだようにして自分の顎に手を当てている。
目が覚めた彼女にこんなことを説明して納得がいくものだろうか。

 
「合格なんだが、・・・・」
 
首を横に振った。
決意するとメタングをボールに戻しエアームドを出し、エアームドに乗り
彼女のほうを振り向いて「ごめん。また会える時を」と言って
彼女を残しエアームドと共に流星の滝を去っていった。






























続く