出逢いは必然
























太陽の楽園

そこに着いたのは五分もかかることはなかった。
昨日クスノキ館長に言われた通り沢山の珍しいポケモンの卵があった。生まれたばかりの幼さを
もつポケモンたちは互いに体や手を触れ合わせれば、仲良くしたり恋をしたりと様々である。
好き嫌いもそれぞれによって異なるものだから、嫌いな相手に対しては全く相手にはしないし
恋愛感情がなくてもそこそこ仲の関係をもつ者いる。それは人間も同じだと思う。
触れ合いの場といったポケモンと触れ合うことが出来る場所があり、そこに入ると子の親である
進化系のポケモンたちが居る。まだ孵すことが出来ていない卵も決して少なくはない。だから親は
卵が孵るまでの間は来た人間に警戒心しながら卵を守り、ちょっとでも近づいてくる者には攻撃をしてくるという。
結局卵を貰うことは出来なかった。けれど楽園から出て行こうとしたとき足元に
青い色をした卵が転がってきた。どうしてこんな所までと卵を拾い撫でてやるとピクピクと動き光って
形が徐々に変わっていき小さな雛のペンギンになった。「ポチャ!」と元気な雛は愛らしい鳴き声を波音にし
パチパチと目を開いたり閉じたりと見つめている。
どうしようと波音は仕方なくさっきの場所に戻り雛を返しに行く。


「ほら早く自分の場所にお戻り。親はお前を捜しているよ」


親は何処だろうとキョロキョロ辺りを見回すが見当たらない。仕方なくその場に雛を置いていく。
雛の目線に合わせ、しゃがませた膝を立たせその場から立ち去る。だが雛は後をついていこうと歩き始めていき
波音はそのことを知らない。波音はカイナのコンテスト会場にやって来るとマシンでポロックを作る。
その頃太陽の楽園のほうでは“泥棒が入った”と騒ぎが起き既にカイナ中に知れ渡っていた。
親は鳴きわめて混乱に陥っている。ドタバタしているなか捜索願いの貼り紙が街全体に貼られ
コンテスト会場の中にも貼られることになった。
そんなことは知らずコンテストのほうに夢中になっている波音は優勝してカイナリボンを貰った。
会場の中にあったソファに腰かけバックを置いて休憩をとり、すぐ目の前の自動販売機でジュースを買い飲む。
後を追いかけていた雛は彼女が自動販売機のほうに行くのを見かけるとソファに置いてあったバックの中に
ゴソゴソと入り込んだ。飲み終えてソファに置いてあった自分のバックを知らず知らず波音は持つと
会場を後にした。昼食にしようと近くのスパゲティ屋でご飯を食べていた。
気づいたのはスパゲティを食べ終え会計をしようと財布を取り出そうとしたときのこと。
バックの中に手を突っ込ませ指先に感じる暖かい違和感は明らかにバックの中にはないものだった。

ギュッと思いきりそのまま引っ張り出してみる。雛はまた愛らしい鳴き声をし波音を見る。
同時に壁にはあの捜索願いの紙が貼られていることに気づき、それを見ていた周りも“嫌だな”
という表情をしていた。波音はあーと苦い顔をする。とにかくまた返しに行かなきゃと楽園のあるほうを急いで
歩く。その途中でルビーに会った。雛を見て英語交じりの日本語で言葉を表す。彼に事情を話した。
孵った雛はどんなことをしても最初に見た者のことを決して忘れず印象が強い。
現にだって雛は彼女に懐いてしまっている。後をついていくのだって
それは彼女のことを親だと思い込んで信じているから。だから率直に言ってしまえば今更楽園のほうに雛を返して
親と対面させてみても雛はきっと納得をしないであろう。例え産みの親ではないとしても。
だが仕方のないことでもある。これも何かの運だということを信じたい。
偶然じゃなくて、もっと意味があって出逢ったみたいな、他世界のある魔女も言っていた
あの言葉は元々自分でも知っていた。“この世に偶然なんてない。あるのは必然だけ”
確かに、もしこの通りなのであれば雛との出逢いは偶然なんかじゃない。必然だ。



だがどんな理由であるにしろ返しにいかなければならない。遠くもない場所からキャーと叫び声が
聞こえ銃のような音が聞こえるのを聞く。赤い所属の男が此方に向かってやって来ると
「そこ退け」とルビーと波音の間を物凄いスピードで駆け抜けて行った。
楽園のほうで何かがあったのかもしれない。彼女は楽園のほうに駆けて行くとルビーも「待ってくれよ」
と後を追いかけた。現実を目の辺りにする。楽園に居る従業員達があちこちを行っては来ては脱け殻の
ポケモン達を運ぶ。孵ったばかりの雛達でさえ無惨な姿化しベトベトな赤い液が地面に大量に付着していた。
液の中からコロコロと銃弾が流れてくることにグッと食い縛り憎悪する。自分の親も殺されたことも知らず
雛は無邪気な様子を二人の前で見せる。腕の中から飛び下りルビーのポケモンであるミズゴロウ(鯢のような)
と遊ぶ。二人は俯いたようにして雛を見る。途中で会った責任者に事情を話したが“クスノキ館長”
のことを聞いて感心をしお礼とのことで雛をくれた。
雛はポッチャマというシンオウ地方のほうで発見された珍しいペンギンポケモンだという。

 
「ま、まあ珍しいポケモンが手に入ったんだし親ももう居なくなって」
 


そんなにガッカリするなよとルビーは励ますかのように波音を宥めた。
勿論新しい仲間が手に入ったことは嬉しい。ペンギンは好きだ。
けれどさっきのことを思い出して考えると泣かずにはいられず周りにおかまいなく泣き出す
彼女にルビーは困り果てていた。泣き終えたのは一時間後で気づいたらルビーと一緒に行動をしていた。
水族館の中に入ってショーを見たりポケモンに触れたり、かき氷を食べたりしているうち波音は
いつもの元気を取り戻した。ふぅと汗を流すかのように安心するルビーはそれを表に出さなかった。


「そういえばポッチャマが手に入る前はアゲハントだけだったみたいだけどそれ以外ポケモンは持ってなかったの?」
 

思い出したかのように彼は波音に聞く。波音は首を前に振る。ついこないだ此処の世界に来たばかりなのに
知るはずがないということは言えない。出来るだけ秘密にしておきたいと何処の世界に行っても
変わらない考えをしている。初めてのポケモン、アゲハントの入っているボールを出して見る。
“初めて”という言葉に疑問をもつ。拒否をすれば、そうじゃないの?彼に疑われそうな予感がした。
水族館を出れば空はすっかり夕闇に染まっており、今日はコンテストに優勝したらカイナを出ていき
ハジツゲタウンのほうに向かおうと思っていたのに。ポケモンセンターに泊まることになると仕方なさそうに
貸して貰った部屋のベッドにダイブする。





そのまま眠ってしまう。居心地の良い夢の世界に堕ちていき過ごす。世界にも誰にも縛られていない
自分の領域へと逃げていく。柔らかな色彩を漂わせ生やした翼を広げ夢の中を大いに駆け飛び立った後に
残る羽が純粋な心を濁らせる。開いた瞳に映る白い影と赤い影。やがては実物となって浮かび上がり腕を掴まれ、
ゴクンと飲み込んで首根っこを噛みつく。片方が渦のようにして足に巻きつき締めつける。
姿形に容姿を変え漆黒の翼、堕天使に身を包んだ破れた者は邪悪な意志を抱き、全てを寄せつけず
無に還してしまう。触れることさえも許されない世界へ変わっていく。
何もかもが変わってしまい偽りの姿に酷く怯え宿命を呪う。生きていることに意味があるのか。
理由さえもなしに生きるワケは何か。辛い運命を背負っているのにも関わらず生き続けるのは何故か。
生きても死んでも答えは一つ。
 

 
 
「生き(死に)たいと思うから」







だから人は願い続ける。


















続く